文・編集:upnow media編集部 | 編集方針
この記事の要点
- 「儲からない」のは努力の量ではなく、儲からない構造の物件と用途を選んでいるから
- 見るべき境界線は3つ。1件あたりの手残りがプラスか、損益分岐の件数に手が届くか、契約期間内に初期費用を回収できるか
- 清掃が予約ごとに発生する用途は、件単価が低いと手残りが消える。会議室やワークブースは清掃が固定費なので構造が違う
- 3つとも越えられない条件なら、開業しないという判断が正しい
はじめに
レンタルスペースを調べると、儲かるという話と儲からないという話が同じくらい出てきます。どちらも事実です。分かれているのは運営者の努力の量ではなく、選んだ物件と用途の構造です。構造が合っていなければ、稼働を上げても手元にお金は残りません。
この記事では、黒字と赤字を分ける境界線を3つ示します。計算の手順そのものは扱いません。初期費用と収支の試算はレンタルスペース開業の初期費用と収支、料金の決め方はレンタルスペースの料金設定で詳しく解説しているので、計算したい方はそちらを先に読んでください。
ここで扱うのは、計算した結果をどう読むかです。
見るべき数字は3つしかない
収支の判断に必要な数字は3つです。1件の予約でいくら手元に残るか。固定費を回収するのに何件必要か。残った利益で初期費用を何か月で回収できるか。
この3つは順番に依存しています。1つ目がマイナスなら2つ目は計算できませんし、2つ目に届かなければ3つ目は存在しません。だから順番に確認します。逆に言えば、3つとも越えられるなら、あとは予約を増やす話に集中できます。
以下、1つずつ境界線を見ていきます。
境界線1:1件あたりの手残りがプラスか
最初の分岐がここです。予約1件あたりの手残りがマイナスになっていると、予約が増えるほど赤字が広がります。この状態は稼働率を上げても解決しません。集客を頑張るほど損失が増えるので、努力の方向が逆になります。
手残りを削るのは、手数料と清掃費の2つです。手数料は売上に比例するので、単価が低くても高くても比率は変わりません。問題になりやすいのは清掃費のほうです。
清掃費は、用途によって性質がまったく違う
清掃には2つの発生の仕方があります。週に1回まとめて行う形と、予約ごとに行う形です。
会議室やワークブースは前者です。利用者が飲食をせず、ごみもほとんど出ないため、週1回の清掃で足ります。この場合、清掃費は固定費になります。予約が10件でも50件でも、清掃費は変わりません。編集部が運営の現場で確認している水準では、会議室で1回1,300円前後、ワークブースで1回300円前後です。月に換算すると、会議室で約5,600円、ワークブースで約1,300円にとどまります。
パーティースペースのように飲食を伴い、ごみの持ち帰りが発生する用途は後者です。予約ごとに清掃が必要で、1回5,000円前後、ごみの持ち帰りを含めるとさらに3,000円程度(40リットル袋1つあたり)が加わります。これは予約件数に比例する変動費です。
この差は決定的です。清掃が固定費の用途では、予約が増えるほど1件あたりの負担が薄まります。清掃が変動費の用途では、件単価が低いまま件数だけ増やしても手残りは増えません。
件単価が清掃費を十分に上回っているか
予約1件あたりの単価は、用途によって大きく違います。編集部の把握している目安では、ワークブースで1,000円前後、会議室で3,000円前後、パーティースペースで8,000円前後です。ただし立地、広さ、設備、利用時間によって幅が非常に大きいため、あくまで桁感として見てください。自分のスペースの数字は、同じエリア・同じ広さ・同じ用途の競合が実際にいくらで売っているかを調べて置き換えてください。
ここで構造が見えます。件単価8,000円の用途で、予約ごとに清掃費5,000円がかかり、さらに手数料が引かれると、手残りはほとんど残りません。パーティースペースで清掃をオプションとして有料販売する形が多いのは、この構造への対応です。清掃のみで5,000円、ごみ持ち帰り込みで8,000円程度を利用料と別に受け取る設定にすれば、清掃費は実質的に相殺できます。
逆に、ワークブースのように件単価1,000円でも成立するのは、清掃が週1回の固定費で、予約ごとのコストがほぼゼロだからです。単価の低さだけを見て儲からないと判断すると、構造を読み違えます。
境界線2:損益分岐の件数に手が届くか
1件あたりの手残りがプラスなら、次は固定費を回収できるかです。固定費を1件あたりの手残りで割ると、損益分岐となる月間予約件数が出ます。
ここで判断するのは、その件数が営業日数と営業時間から見て現実的かどうかです。1日あたり何件の予約が必要になるかに直して考えると分かりやすくなります。月30件なら1日1件、月90件なら1日3件です。1日3件というのは、朝昼夜の枠がほぼ毎日埋まっている状態を意味します。
家賃が高い物件ほど、このハードルが上がります。立地が良ければ予約も増えるはずだという想定は、用途によっては成り立ちません。会議室のように平日の需要が中心の用途では、繁華街の家賃を平日の予約だけで回収することになります。
現実的かどうかの判断材料は、同じエリアの同じ用途のスペースが実際にどれくらい埋まっているかです。予約サイトのカレンダーを数週間分見れば、おおよその稼働は把握できます。損益分岐の件数がその水準を大きく超えているなら、その物件では成立しません。これは努力で埋められる差ではなく、家賃の問題です。
境界線3:契約期間内に初期費用を回収できるか
月の利益が出たら、最後に初期費用を何か月で回収できるかを見ます。初期費用を月の利益で割るだけです。
判断の基準は、賃貸借契約の期間です。事業用の物件では2年から3年の契約が一般的なので、36か月を超える回収計画は、契約更新のリスクを抱えたまま走ることになります。更新できる保証はありませんし、更新時に賃料が上がることもあります。
この数字は、件数の見込みが少しずれるだけで大きく動きます。初期費用と収支の記事に載せている試算例では、稼働率が30パーセントから40パーセントに上がるだけで、回収期間が65か月から22か月に変わります。計算方法を示すための仮の数字ですが、割り算の性質として、利益が小さいほど回収期間が急激に伸びることは変わりません。
だから、開業前の見込みは控えめに置きます。控えめな見込みで回収期間が36か月に収まるなら、計画としては堅いと言えます。
なお、回収しきる前に設備が古くなるという論点もあります。取材記事レンタルスペースの寿命は2年では、1年以内に回収し、2年でリニューアルするという運営の原則が語られています。回収期間は契約期間だけでなく、設備の寿命とも突き合わせる必要があります。
予約経路の構成比は、3つすべてに効く
手数料は経路によって大きく違います。プラットフォーム経由の成約手数料は、instabaseが時間・人数単位のプランで35パーセント、1日単位のプランで20パーセント、スペースマーケットが時間貸しで30パーセントです。自社予約サイトの場合、upnowではサイト手数料が売上の2.98パーセント、決済手数料が売上の3.5パーセントと予約1件あたり99円です。各社の条件は集客プラットフォームの比較に整理しています。
同じ売上でも、経路の構成比が変われば手残りが変わります。手残りが変われば損益分岐の件数も、回収期間も動きます。3つの境界線すべてに効く変数です。
ただし、開業直後に自社予約の比率を上げることはできません。知名度がなく、指名検索もGoogleマップの表示もない状態では、自社サイトに人が来ないからです。掲載から始めて、名前で探される動きが出てきた段階で受け皿を足す。この順番については予約システムの選び方で詳しく扱っています。
収支計画では、開業1年目はプラットフォーム中心の構成比で計算し、自社予約の比率が上がったときの改善幅を別に見ておくのが現実的です。
越えられない条件には、共通点がある
3つの境界線を越えられない物件と用途には、繰り返し現れる条件があります。該当するからといって必ず失敗するわけではありませんが、契約前に確認する価値があります。
ひとつめは、家賃が相場より高いこと。固定費が重いと損益分岐の件数が上がり、回収期間も伸びます。レンタルスペースは家賃を時間で割って売る事業なので、家賃の高さは他の努力で相殺しにくい項目です。
ふたつめは、件単価が低いのに清掃が予約ごとに発生すること。手残りが構造的に小さくなります。清掃をオプションとして販売できない用途では、とくに厳しくなります。
みっつめは、競合が多く単価を上げられないこと。同じエリアに同じ用途のスペースが多いと、価格が比較の対象になります。設備や内装で差をつけられない場合、単価を下げる以外の手が残りません。
よっつめは、契約期間が短いこと。定期借家で2年しかない物件に内装費をかけると、回収の途中で出ていく可能性を抱えることになります。
これらが重なっている場合、開業しないという判断が正しいことがあります。固定費を超えられない計画は、稼働を上げても赤字が縮むだけで黒字にはなりません。開業してから気づくより、契約前に気づくほうが損失は小さく済みます。
自分の数字で確かめる
ここまでの3つの境界線は、自分の条件を入れれば数字で出せます。レンタルスペースの収支診断では、用途、予約単価、月間の予約件数、予約経路の比率、家賃、清掃の方式を入力すると、1件あたりの手残り、損益分岐となる予約件数、初期費用の回収期間が出ます。
使い方としては、まず控えめな見込みで入れてみて、3つとも越えられるかを見ます。越えられないなら、どの数字をいくつ動かせば越えるかを試します。家賃を1万円下げる、単価を500円上げる、清掃を自分で行う。どれが効くかは条件によって違います。
儲かるかどうかでよく出る5つの問い
レンタルスペースは儲からないというのは本当ですか
物件と用途の構造によります。見るべきは3つで、1件あたりの手残りがプラスか、固定費を回収できる件数に手が届くか、契約期間内に初期費用を回収できるかです。この3つを越えられない条件なら儲かりませんし、越えられるなら残りは予約を増やす話になります。努力の量より、契約前の選択で決まる部分が大きい事業です。
予約が増えているのに利益が出ないのはなぜですか
1件あたりの手残りがマイナスになっている可能性があります。この状態では予約が増えるほど赤字が広がります。原因は手数料か清掃費です。とくに、ごみの持ち帰りが発生する用途で清掃が予約ごとに必要な場合、件単価が低いと手残りが消えます。清掃をオプションとして有料で販売する形にすると、この構造を改善できます。
単価が低い用途は不利ですか
単価だけでは判断できません。ワークブースは予約1件あたりの単価が1,000円前後と低いものの、清掃が週1回で済むため予約ごとのコストがほぼかかりません。逆にパーティースペースは単価が高くても、予約ごとに清掃費が発生します。見るべきは単価ではなく、単価から変動費を引いた後に残る額です。
初期費用の回収期間は何か月までなら許容できますか
賃貸借契約の期間が基準になります。事業用の物件では2年から3年の契約が一般的なので、36か月を超える計画は契約更新のリスクを抱えることになります。あわせて設備の寿命とも突き合わせます。回収しきる前にリニューアルが必要になると、計画が成立しません。
開業をやめたほうがいいのは、どういう場合ですか
家賃が相場より高い、件単価が低いのに清掃が予約ごとに発生する、競合が多く単価を上げられない、契約期間が短い。これらが重なっている場合です。固定費を超えられない計画は、稼働を上げても赤字が縮むだけで黒字にはなりません。開業してから気づくより、契約前に判断するほうが損失は小さく済みます。
まとめ:3つとも越えられる条件を、契約前に選ぶ
レンタルスペースが儲かるかどうかは、1件あたりの手残りがプラスか、損益分岐の件数に手が届くか、契約期間内に初期費用を回収できるか、の3つで決まります。順番に依存しているので、上から順に確認します。
この3つは、どれも契約前に計算できます。家賃、想定単価、清掃の方式、予約経路の構成比。必要な数字は契約前に揃います。逆に、開業してから変えられるのは単価と件数だけで、家賃と初期費用は固定されます。
だからこそ、判断は物件を決める前です。3つとも越えられる条件を選ぶ。越えられないなら、その物件では始めない。これが、努力でどうにもならない部分への唯一の対処になります。

